TSUKUBA FRONTIER #050:私たちは知識の伝達と共有の中に生きている

図書館情報メディア系 教授
宇陀 則彦(うだ のりひこ)教授
PROFILE
狗万app足彩,狗万滚球図書館情報メディア系教授。
附属図書館研究開発室室員。
2022年度より情報学学位プログラムリーダー。
MDA高度情報専門人材教育に参画。
2005年から2019年まで附属図書館電子図書館システムTULIPSの設計?導入に従事。
2010年度から2013年度まで文部科学省学術調査官。
その他、国立情報学研究所、国立国会図書館、国立歴史民俗博物館、国立国文学研究資料館、国立民族学博物館等の客員教員、研究員、委員を歴任。
人の思考を助ける新しい社会記憶システムの構築
私たちは膨大な情報の中で暮らし、検索すればなんでも分かるように思えます。
にもかかわらず、他人の考え方が理解できなかったり、時には衝突してしまったり。
それでも、知識量が増えれば、思考の自由度も高まるはずです。書物やネット上に記録された知識と個人や社会が持つ知識、それらの関わりを捉え、有機的に組み合わせて提供することで、より深い思考や相互理解を促す、そんな新しい知識情報学の構築を目指しています。
世界は自分のレベルに応じた姿でしか見えない
同じ時代、地域に生きていても、自分が見ている世界と他人が見ているそれは、同じではありません。その違いは、一人ひとりの経験や知識に起因します。世界中で起こっているさまざまな衝突や紛争も、根本的な原因はそこにあり、互いの背景や知識を知れば、避けられることは多いはずです。つまり、私たちは、自分に見えている範囲でしか思考できず、思考の自由度は持っている知識量に比例するのです。
この世界には、個人の知識があり、社会や人類全体の知識があり、また、図書館や博物館、文書館には膨大なアーカイブ(記憶資源)があり、さらには、まだ発見されていない知識もどこかに眠っています。そのうち検索エンジンで見つけられるのはごくわずか。しかも、検索には知識に応じたバイアスがかかっており、見たい情報しか探し出すことはできません。人が持つ知識、社会が持つ知識、そして記録された知識を有機的に連結させて取り出せるようにすることが、知識情報学の大きな命題です。
記憶資源の相互作用による新しい知識提供

社会と人とは常に相互作用をしており動的に知識が入れ替わりながら変化する、という考え方(社会構築主義)があります。そうだとすると、やはり新しい社会記憶システムの構築が必要です。
何かを知ろうとするとき、直接的な資料に加えて、さまざまなアーカイブの情報や、物理的な「モノ」なども組み合わせて提示されれば、理解の幅が広がります。例えば、睡眠に関する研究成果(論文)と、関連する他の書籍、それに睡眠を連想させる枕やマットレスなどを同時に示すことで、論文中の情報だけではない新たな知識が提供されます。そう考えると、私たちはまだまだ世界中の情報を十分に生かしきれていないわけです。AI(人工知能)などを積極的に活用し、人間の認知システムも考慮した新しい社会記憶システムの構築を目指しています。
究極の検索カスタマイズで人文学の活性化を
人文学研究では、資料が命。ですから、図書館との相性は抜群です。最近は、デジタル技術の活用で、昔ながらの図書館のイメージも変わりつつあります。その影響は人文学にも及び、「デジタルヒューマニティーズ」という新しい学問領域として注目されています。人文学研究は、研究者個人が独自に持つ資料に基づいて行われることが多く、他の人との資料の共有には消極的になりがちです。しかし、オープンサイエンスの流れは人文系にも来ています。資料のデジタル化やオープン化は、その情報や知識に関わる人が増えることを意味します。そうした人々の相互作用も強くなれば、分野全体が活性化すると期待されます。
しかしながら、いくらオープン化が進んでも、研究の個別性が高い人文学においては、現状の検索システムでは精度が不十分です。そこで、個々の研究者がどのような資料探索行動をしているのかを調べ、一人ひとりにカスタマイズされた究極の検索システム作りに取り組んでいます。結果に汎用性が求められる理系の考え方とは真逆のアプローチです。
知識で現実を超える
このようなカスタマイズの概念は、本棚研究にも現れています。どんな本を持っているのか、また、同じ本を持っていても、それをどのように本棚に並べるかで、その人の情報に対する視点が見えてきます。本棚自体が知識の表現となるわけです。図書館や書店ではさまざまな工夫を凝らした本の並べ方をしていることがあり、私たちはそれを見て、思考が活性化され、時には思いがけない本に手を伸ばします。こういった新しい知識との出会いも、デジタル技術を駆使すれば、もっと簡単にもたらされるでしょう。
私たちは、生まれてから死ぬまで、ずっと知識の伝達と共有の中に生きています。歴史を遡れば、書物の隣には常に人間がいて、知識の伝達共有は書物を介して行われてきました。その発展型が、このようなカスタマイズされた知識提供のシステムです。物理現象などと同様、知識の伝達共有も一つの現象と捉えれば、現実を超えた、知識共有に伴う社会変化のシミュレーションも可能かもしれません。
狗万app足彩,狗万滚球図書館情報メディア系 宇陀則彦?松村敦研究室

そのこだわりが研究トピックにも生かされている。)
宇陀則彦?松村敦研究室では、デジタルライブラリ、デジタルヒューマニティーズ、本棚研究、絵本研究など知識情報学に関わる研究を行っている。また、附属図書館と共同で、雙峰祭に「近未来図書館シリーズ」として2010年度から毎年出展している。これまで来場者投票でグランプリを3度受賞している。附属図書館のキャラクター「がまじゃんぱー」はこの雙峰祭企画において空想世界から現実世界に実体化した。その後、2015年の第1回図書館キャラクターグランプリ(図書館総合展)で、がまじゃんぱーが初代王者に輝いた。
(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)