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TSUKUBA FUTURE #131:カーボンニュートラルに挑む

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システム情報系 秋元 祐太朗 助教

 再生可能エネルギーの大量導入に向けた運用モデル作りから、それを支える蓄電池や燃料電池まで、脱炭素社会の実現につながる研究開発に取り組んでいるのが、秋元さんです。

 秋元さんがエネルギー研究で重視しているのが経済性と環境、安定供給のバランスです。その中でも安定供給の視点から注目しているのがレジリエンスです。非常時にどれだけ柔軟に対応できるかという強じん性のことで、太陽光発電と蓄電池を備えた建物のレジリエンスの指標を開発しています。公共施設を中心に太陽光発電と蓄電池を併設した建物が増えています。再エネの導入拡大に加え、自然災害などで外部からの電源供給が停電しても、自家発電や蓄電池の利用で一定期間、活動を継続できるというメリットがあるからです。多くの建物では、発電設備のコストと設備や蓄電池の容量が導入の指標となってきました。秋元さんは、そこにレジリエンスの観点も取り入れるべきだと指摘します。

 レジリエンスの指標としては ➀冗長性(停電時でも電力供給可能な時間の長さ) ➁余力(電力供給可能時における建物の電力需要量と供給量の差) ➂供給不足量(供給不足発生時における建物の電力需要量との供給量との差)――などの組み合わせが考えらます。今年1月には、大分県内に実在する太陽光発電と蓄電池を備えたゼロエミションビル(年間の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにできる建物)を対象に、これら三つの指標でレジリエンスが評価できることを示した論文を発表しました。「将来的には、家電の省エネラベル表示のように誰もが分かりやすいエネルギー?レジリエンスの指標を作り、自治体や家庭での再エネ導入促進につなげたい」と秋元さんは言います。

 この研究と並行し、本田技術研究所と共同で取り組んでいたのが、リチウムイオン電池(LIB)が純正品かどうかを非破壊で見分ける手法の開発でした。再エネと蓄電池の組み合わせが役立つのは、非常時に限りません。風力や太陽光など発電に伴って二酸化炭素(CO2)を排出しない再エネの導入拡大は、地球温暖化対策の基本です。しかし、再エネには季節や天候によって出力が変動します。この弱点を克服する方法が蓄電池との組み合わせです。再エネで発電した電気をためておき、足りない時に補えば、安定した電力供給につながるからです。そして、蓄電池の代表格がLIBです。

 LIBを巡っては、純正品でない電池(互換品)を使うことで火災が起きるなどのトラブルが問題となっています。形状の規格化が進んだため、見た目で純正品か互換品化を見分けることは難しいそうです。メーカーは純正品にマークや識別用のICチップをつけるなどの対策をとってきましたが、いずれも偽造可能で、根本的な解決にはなりません。

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秋元さんと研究室の学生ら

 秋元さんたちは識別の方法として磁場を使うことにしました。LIB内を電流が流れると、それに伴い磁場が発生します。純正品と互換品で内部構造が違うため、磁場の発生の仕方も異なるはずで、その違い検知すればいいと考えたのです。LIBの外側に複数の磁気センサーを取り付けて磁場を計測したところ、予想通りの結果が得られました。この手法は、LIBの劣化度合いの診断にも応用できるそうです。純正品と互換品が混じると、電池のリサイクルも難しくなると言われていますが、この技術を用いれば、それも防げます。LIBの利用に伴うさまざまなトラブル防止に役立つことでしょう。

 秋元さんたちは、磁気センサーを使った燃料電池の非破壊診断と制御にも取り組んでいます。燃料電池は水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーを取り出す装置です。発生するは基本的に水で、CO2を排出しません。再エネで水を電気分解して得られた水素はグリーン水素とも言われ、その主要な活用先の一つが燃料電池です。脱炭素社会を担うクリーンな電源となります。

 しかし、燃料電池にも弱点があります。発電時に発生する水が電池内にたまりすぎると、触媒との反応面積が少なくなり、性能が落ちるのです。一方で、水を除去しすぎると水素が透過する電池内の高分子膜が乾燥し、やはり性能が落ちてしまうのです。

 こうしたトラブルを防ぐため、電池内部に組み込んだ計測装置やさまざまなセンサーを使って水のたまり具合を検知し、制御することが行われてきましたが、コスト高につながっていました。秋元さんたちは、電池の外側に取り付けた磁気センサーの計測データから燃料電池内の電流分布をリアルタイムで可視化して水のたまり具合を判定し、制御することに成功したのです。今までより低コストで燃料電池の安定稼働を実現できる技術です。

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エネルギー研究で経済性と環境、
安定供給のバランスを重視している秋元さん

 実は、この技術に注目した本田技術研究所からの誘いで、LIBの純正品?互換品の識別法開発は始まりました。社会に求められることで、研究が進む好例と言えるでしょう。

 秋元さんは車好きで、もともとは機械工学に関心があり、高等専門学校に進みました。小泉純一郎元首相が燃料電池自動車に乗るなど、環境に配慮した取り組みに関心が高まり始めた時期でした。「車も電気で動く時代になる」と思ったことが、エネルギー分野の研究に取り組むきっかけになりました。高専修了後は筑波大に編入し、大学院で燃料電池を制御する研究を進めたことが、現在につながっています。

 そんな秋元さんが挑む壁が、カーボンニュートラルです。日本も参加する地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度に抑えることを目標に掲げています。その実現には、2050年までにカーボンニュートラル(世界全体で温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)にする必要があるとされています。しかし、世界の対策が順調に進んでいるとは言えません。

 「エネルギー分野の研究は社会貢献に直結する。そこにやりがいを感じる。カーボンニュートラルは達成が困難な目標であるが、だからこそ挑まずに後悔したくはない」。そんな思いが秋元さんの研究の原動力となっています。

(文責?サイエンスコミュニケーター)